祖父への手紙


先生、(私たち孫は祖父をそう呼んだ)天国の様子はどうですか。気の合った友達とお酒を飲みながら、芸術論に花を咲かせていることでしょう。先生がこの世を去ってから早いもので18年も経ちました。


 先生と一緒に生きていたのはたったの12年余りですが、油絵具の匂い、白髪と額の深いしわ、長い指にはめた大きい指輪、茶色のジャケットに赤いネクタイ、缶ピースの煙草に伊万里の圧服、咳き込むように笑う少ししゃがれた声…そんな素敵な先生の記憶は今でも変わらず、誇らしく思っています。


 不言議なことってあるものですね、それはいつも夏、お盆が近い頃になると、先生にまつわる「何かがよく起きるのです」。


 数年前もそうでした。突然現われたその人は、まだ私が幼い頃にはいつも家に来ていたそうです。それが何故か来なくなって、何十年…また、突然現れ、先生の話を沢山して帰っていきました。私はそんな夏の「何か」によって私の知らない人生を知り、少し自分のルーツに触れることもできて、とても楽しかったです。


 今年の夏もまた、その「何か」のひとつになりそうなことがあります。先生が生まれ愛した茅野市で「五味保展」を開催して下さることになりました。先生の描く素朴な情景は、いつのまにか忘れかけていた懐かしい故郷を思い起こさせてくれる事でしょう。


 先生の絵を茅野市の方をはじめ多くの方に見ていただいて、ひとときでも「心の故郷」に帰ることができたら、どんなによいでしょう。


 茅野市美術館長さんをはじめ、大島さん、並びに、ご来場いただいた多くの方に深く感謝いたします。

 天国の先生、素晴らしい作品をありがとう。これからもずっと先生の思い出と一緒に大切に残していくことを約束します。


                       1999年 堀田かつみ


五味保先生の孫にあたる、堀
田かつみが、天国の先生に宛
てた手紙です。